アウトドア・田舎暮らしの原点 野田知佑「カヌー犬ガクの生涯」

なぜ東京から高知に移住までしたのに、お金に縛られた生き方をしているのだろう。と疑問を抱いていた時、なんとなく立ち寄ったブックオフで野田知佑の本「カヌー犬ガクの生涯」を見つけた。

もう感想を書くのも馬鹿馬鹿しい。「これだ、僕の原点はここにあったじゃないか!」せっかく高知に移住して東京の経済一辺倒の世界から片足抜け出したはずなのに、カネのことばかり考えたり、どうすれば楽に生きられるかを考えたり、そんなことばかり思って生活していた。

野田知佑の本を初めて読んだのは、小学校の終わりか中学生の頃だ。子どもの頃から魚や磯遊びや釣りが好きで、大人になってもそんな野外遊びをしながら暮らせたら最高だろうな、とぼんやり夢想しているような子どもだった。野田知佑の本の中には、僕がぼんやり思い浮かべていた理想の生活があった。

誰もいない河原にテントを張り焚火を熾してコーヒーを飲むという男のロマンチシズム、アラスカの荒野を一人で銃で食料を自給しながら旅をするヒリヒリするような自由さ、に十代の僕はすっかりまいってしまったのだった。子どもの頃から近所で釣りをしたりしていたけれど、「アウトドア」や「バックパッカー」という言葉を知ったのも野田知佑の本だった。

高校生のときにはテントと寝袋を担いで北海道を旅して、大学生の時は貧乏旅行とアウトドア遊びばかりをしていた。学校を卒業してからも野田知佑を真似してバックパックで海外を回った。

僕は気付けば大人になり、東京でカネのために自分を押し殺してサラリーマンになっていた。あれほど憧れていた自由な生活とは真反対の生活。生きていくにはカネがいる。なんだかんだでカネがなくちゃ。

このままでは駄目だと決死の覚悟で東京を飛び出した。それなのに、またまた同じことの繰り返し。カネがなくちゃ暮らしていけぬ。楽するためにもっと稼ごう、もっと稼ごう。気付かぬうちに会社の奴隷、何を言われても頭を下げて耐え忍ぶ、貯金通帳だけが心の拠り所。こんなことをするために高知に移住したつもりは無いのに!

この本の中で野田知佑が

鹿児島に移住したことで、ぼくの収入は半分になった。しかし、生活内容は東京の時より数倍充実したものになった。

と書いている。

これでいいのだ。カネを優先して生きるなら東京が一番良い。僕はカネを捨てて高知に来ている。初心忘るべからず、忘れていた原点を思い出させてくれた。

この本単体で読んでも、野田知佑の潔い文章は健在で、カヌー犬ガクと著者の生き様が分かる良書。野田知佑の過去の本を読んできた人なら、ラストは心に来るものがあるはずだ。