ステージ0舌癌入院日記

初期の舌癌(ステージ0)で入院、手術をしたのでその記録。

4/6

同室の人が退院した為、今日から個室状態。ラッキー。手術は13時からのため、朝食昼食無し。水分は10迄とのこと。9時半に水をコップ一杯飲む。

11時間から点滴開始。右腕に上手く入らず左腕に変更。

13時前に病室からベッドで寝たまま移動する。談話室前で妻と30秒ほど話すが、話すことがなく気まずい。

やたらとピカピカしたオペ室に運ばれる。オペ室は若い女性が多く、5~6人は居たように思う。青色のビニールっぽい手術用ベッドに移る。ここから急に緊張し出す。麻酔師の若い女性に「手が冷たい、緊張してますか?」と聞かれる。「麻酔入れますねー、少し痺れてきまーす」だんだん左腕が痺れてきたと思ったら、景色がグニャリと曲がったと思ったら夢の中へ。

なんだかすごく楽しい夢を見ていたのは覚えている、「楽しいなぁ」と思ってたら「おわりましたよー」という声で目が覚める。ここからが地獄の始まりだった。

頭はぐらぐらするし、気持ち悪くて吐き気がするし、喉と舌は痛いし、呼吸は出来てるということで鼻のチューブは抜いてもらったが、その鼻も痛い。

しばらく安静室にいてから17時頃、病室に戻る。戻った時点で気持ち悪くなり何回か吐く。食事を取っていないので、出るのは痰と血の塊。点滴、心電図、酸素濃度測定器?に繋がれてコードがうるさい。

シバリングを起こして解熱剤を点滴。通常の点滴と抗生剤と痛み止と解熱剤。これが無ければ死んでしまうと思うと人間の弱さを実感する。結果的には37.8程度で熱は止まった。

唾と血が出るが飲み込むことが出来ないので、寝ていると窒息しそうになる。体を起こして唾と血を吐き出しては横になることを繰り返す。

ベテラン看護婦さんが痰の吸引機をセットしてくれる。これでいちいち起き上がらなくてよくなった。唾と血が口に溜まったら自分でカテーテルを口に入れて吸い出す。

それでも、自分で飲み込むことは出来ないので息苦しさはあまり変わらなかった。上を向いていると唾と血で窒息しそうになるので、横を向いて寝ようとするが、横になると口から唾と血が枕にこぼれてしまう。枕に敷いていた手拭いは唾液と血液でどろどろ。枕の回りもぐっしょりしてしまった。舌の手術では唾液が大量に出ることがあるらしく、事前にベッドには汚れ止めのシートが敷かれていた。結果的には病衣にも血と唾液が付き、酷いことになったが、まだまだ少ない方らしい。痰吸引機には600ミリリットルほど溜まっていた。

10分寝て10分起きるを何度も何度も繰り返した。辛いから眠ろうとするが唾と血が溜まり息苦しくなって目が覚める。吸引機で吸ってウトウトすると、また唾と血が溜まって目が覚めるの繰り返し。本当に辛かった。

4/7

引き続き、痛み止、抗生剤などを点滴しながら、痰吸引機を使って過ごす。朝食出るが食べれず。昼飯からペースト食(ゼリー粥、アジの煮付け、餡掛け豆腐、オレンジゼリー、りんごジュース)、半分ほど食べる。不味い、痛い、食べにくい。ずるずると口の右端から吸い込むように食べるがなかなか食べれず嫌気がさしてくる。微熱が続く。

うがい薬はじめる。午後にはほとんど出血無し。

小便器の手摺に感動。ふらふらする体を手摺に寄り掛けて放尿する。快い。

寝不足のはずだが昼寝は無し。夜もあまり寝れないのに不思議。

4/8

痰の吸引機を使わなくなる。微熱あり。術後高めだった血圧が下がりはじめる。点滴の針だけ残して点滴を止める。自由に動けて嬉しい。

夜は何度も起きて痛み止を飲んだり、おしっこに行ったり眠れなかった。それでも昼寝はしなかった。

4/9

36度台まで下がる。熱っぽさは続く。点滴の針も外れて風呂に入れるようになる。地味にチクチクする点滴が無くなり回復を実感するも、入浴後気分が悪くなる。

昨日から入院した同室の男性(65歳位)が朝6時からシェーバーを使いはじめたので、注意する。夜中イビキかいていたので余計に腹が立った。こちらも食べる時にズルズルうるさいので謝ると「こちらこそすみません」と大人の対応。イライラしても仕方ない。

少し散歩。ここにきて寝不足を感じ、一日寝て過ごす。

4/10

痛みは相変わらず。少しずつ舌が動かせるようになってきた気がするが、動かすと痛いので、食事やうがい薬を使うときも極力動かさないようにしている。食事が憂鬱。少し散歩。ほとんど寝て過ごした。風呂は入らなかった。

隣室の女性患者の容態が良くないようで、医者と看護婦数人来て痰吸引機を使ったり、モルヒネを投与したり、「ぎゃー!」「いだぁぁいぃー!」と大騒ぎ。生きるのは大変だ。

4/11

舌が動くようになったせいか、ちょっと舌のポジションがいつもと変わると痛い。舌の先がビリビリ裂かれるみたい。痛み止が切れると治療した歯や頭も痛くなる。痛み止は6時間以上間隔を空けろとのことだが、食事前に合わせて飲む。

熱は無いが(36.8)熱っぽさは続いていて、少し散歩した後は寝て過ごす。

隣室の女性患者は少し安定したようだが「いたぁいー!」などなど叫び声が聞こえてくる。病室には両親?がいるようで、電話で話したりうるさい。体を動かすと痛いようだけど、何の病気だろうか。声からすると僕と同年代のようだが、精神疾患もあるのかな?という感じ。

4/12

入院十日目。夜、イビキと痛みで寝れず3時頃就寝。また微熱が出た(37.5)。

同室の男性は抜歯の手術とのこと。原因不明の痛みで救急車で運ばれてきた人もいて、精神疾患があるようで本人は何故入院してるのかも分かってないようだった。

とにかく食事が苦痛。痛い。でも食わなきゃ生きれない。

4/13

病室が4人満員になる。偉そうな60台のおじさん勢揃いで気が滅入る。一人は腸閉塞のようで、病気はばらばら。

微熱(37.3)あり。今週から抜糸予定とのこと。抜糸して痛みが無くなることを期待。早く好きなように飯が食いたい。

前も隣も大イビキ。共同生活はガサツが特だ。

4/14

ゼリー粥からお粥にグレードアップ。ぜんぜん上手く食べられ無い。舌の右側に乗った米粒ならば喉の奥まで飲み込むことが出来るが、舌の真ん中より左側に乗った米粒はコントロールを失い、いつまで経っても舌の上や舌の左下に居座る。ここまで食べる力が落ちているのかと絶望的な気分になる。

夜11時半、痛み止の錠剤を飲もうとして舌の右側に入れたのだが失敗し、左側に落ちてしまう。それを飲み込もうとして何度も水で流し込んでいたら、口の中がぬるぬるしだした。おかしいなと思ってトイレに行き鏡を見ると口の中が血だらけ。看護婦さんに血が出ていることを告げているうちにボタボタ血が垂れてくる。看護婦さんに口の中に目一杯ガーゼを詰め込まれながら、病室に戻ろうとするもガーゼが吸引しきれずだらだら廊下に血が垂れる。病室でベッドに座った時にはじゃばじゃばと音が出るくらい血がで出して「あー、これは死んじゃう」と怖くなり、震えが止まらなくなる。看護婦さんが「まずいまずい、どうするどうする」とか焦っているから死の恐怖が倍増。応援の看護婦さんと医者が来て、すぐさま点滴を打たれて、口の中のガーゼをビニール袋に吐き出す。後からこの血を含んだガーゼだけで200gあったことを知る。

血まみれでナースステーションにベッドで運ばれて看護婦2名と医者2名で対応してくれた。この時点で既に出血は止まっていたようだった。最初に駆けつけた若い男性医師は頼り無さげだったが、若い女性医師はてきぱきしていて頼りがいがある感じ。血まみれの手足も拭いてくれて人心地つく。医者「若くて助かったね」とのこと。年寄りだったら危険な状態だったらしい。

男性医師の診断で、舌を噛んだことが出血の原因ということになったが、僕としては噛んだ記憶は無く、痛み止を飲むときに舌を大きく動かして傷口が開いたせいだと感じた。

朝まで血まみれの病衣のままナースステーションで点滴と心電図などを着けてうとうとして過ごす。この入院で初めて尿瓶を使った。

4/15

心電図と点滴、酸素計などを着けたまま病室に戻る。病衣が血だらけなので、日勤の看護婦や掃除のおばちゃんが来てビックリしているのは少し楽しい。

着替えをしたらパンツや靴まで血だらけだった。とりあえず生きていてよかったと安心するも、術後一週間も経って出血することは無いようで看護婦に心配され、不安になる。

この日は熱もあり、食事もほとんど食べられず。

しかし病室のおじさん達のイビキはヒドイ。

4/16

取った癌細胞は全て除去できていたとのこと。少し安心。あとは再発しないことを願うばかりだ。

微熱続く。夜、苦戦しながらも初めて全粥を完食。唾も飲み込めなかったのが嘘のようだ。

なんか舌がぬるぬるして気持ち悪い。これまでは舌が分厚い苔で覆われているような感じでザラザラした感触だった(実際に舌は苔だらけ)が、急にぬるぬる血でも出ているような感触になる。鏡で見ると実際に苔は減ったようだが、それにしてもぬるぬるして気持ちが悪い。生レバーでも食べているみたいだ。

今日もイビキがひどく眠れない。

4/17

朝から全粥完食。朝微熱あり、昼過ぎには下がる。点滴が取れて久しぶりに散歩。昨日から下痢が続く。夕食後少し出血あり。

4/18

1日寝て過ごす。下痢が続く。昼食後少し出血あり。血圧が上150下100と高い。

4/19

昼飯から超きざみ食に変更。術後初めて箸を使って食べる。鰹のたたき、煮物、澄まし汁。美味しさに感動した。

ペースト食は、付け合わせも全て一緒にどろどろにされていて、魚料理なら魚臭いどろどろ、野菜料理なら青臭いどろどろにしかならず、食事というより、栄養を取るための作業でしかなかった。また、ペースト食の場合、お粥を少し食べておかずを少し食べるということが出来ない。それをしようとするとスプーンに付いたペーストが混ざりあって、ただでさえ不味いペースト食がさらに不味いものになってしまう。でも、きざみ食なら箸でお粥を一口食べて、おかずの鰹を一口食べて、煮物を一口食べるということが出来る。味は勿論混ざらない。

きざみ食は、付け合わせも別々に刻まれていて、鰹のたたきと付け合わせのきゅうり(わかる!)が別々になっている。粉々になってはいるけれど食感はあるし、味もちゃんとその物の味がする。食べたことが無い人にとって、ペースト食もきざみ食も同じように感じるかもしれないが、全くの別物。

舌を手術した人は可能なら早めにきざみ食に変更すると、日々の食事が苦行から楽しみに変わります。

一部のみ抜糸。他の抜糸は退院後になる。からだに吸収される糸だそうで、無理に抜糸することはないそう。ほとんど痛みは無し。明後日退院が決定。

4/20

明日は退院。体調よく超きざみ食を完食。

夜8時入浴。シャワーを浴び始めてすぐ口の中に血が溢れてくるのを感じる。まただ!ナースコールを押してすぐ看護婦が来るが、若い看護婦さんで慌ててパンツをはく。その間も出血は止まらず、口を閉じてもすぐにいっぱいになり吐き出すのを繰り返す。大勢の看護婦とリーダーの医者と以前も対応してくれた若い女性医師に囲まれて、止血しようと舌の下側を押さえるが止まらない。脱衣室の床で転がされたまま点滴開始。止まらないので処置しやすいようにベッドに移され、ナースステーションに運ばれる。

リーダーのガタイのいい医者が若手の医者に「次は無いぞ!」と怒鳴る。前回の出血の処置をちゃんとしなかったからだろうか。いくら押さえても出血は止まらない。採血と点滴を追加。その間にICUと麻酔科医を手配。女性医師は完全に焦っていて「焦っている時ほど冷静に」とリーダーが声を掛ける。この人は信用出来そう。血管収縮させる麻酔注射を何本も打たれる。痛い。以前にも出血していたから少しは冷静だったが、あまりに血が止まらないので、これは本当に死ぬぞと考えたら、ガタガタ体が震えだした。少し出血が収まり、麻酔科医到着、止血手術をすることに決定。意識朦朧としたまま何かにサインしたような気もするがよく覚えていない。駆け足でICUに運ばれる。

「また来てしまった。もう目が覚めないかもしれない。」

麻酔開始。体がじんわり痺れてきて、天井のライトが歪む。