うっとりするほどビンボー 松下竜一著「底抜けビンボー暮らし」

松下竜一という作家は恥ずかしながら知らなかった。

書名に惹かれてたまたま図書館で手に取ったが、何作かが教科書にも掲載されておりかなり著名な作家だったようだ。

この本は、著作が売れず、ビンボーながらも楽しく暮らす「松下センセ」(自身のことをこう書いている)と家族や周囲の人々のことを書いたエッセイ。

この本では、収入についてかなり詳しい金額が書かれているのだが、教科書に掲載されるような作家であっても収入はかなり少ない。

作家の収入は仕事量によって変動が大きいのだが、年収は二百万円程度だったようだ。

そんな先行きが見えないなかでも、何とか子どもの3人を育てて、夫婦仲良く明るくのんびり暮らす日々はなんとも微笑ましい。

解説に「うっとりするほどビンボー」と評されているが、まさにその通り。

お金は無いし、松下竜一も奥さんも病気なのに、読んでいるとなんだか幸せな気分になるのだから不思議だ。

作家で貧乏というと、破天荒で金使いが荒い遊び人というイメージだが、松下竜一は正反対だ。

性格はいたって真面目で、生活費以外にお金を使うのはカモメにあげるパン代やささやかな家族旅行費用くらい。

ただただ純粋に作家としての収入が少ないからビンボーなのだ。

競争社会からの離脱を大上段に構えることもなく、かといって卑屈になるでもなく、ただ底抜けにビンボーな暮らし振りが、肩の力が抜けていて、気持ちが良い。

文章はきれいだし、ほんわかと楽しく、明るくビンボーしたい人にオススメしたい。