芳賀日出男著「日本の民俗 暮らしと生業」は昭和30年代を中心に、日本各地の風習をテーマに写した写真集。
これを見ると、昭和30年代まで古くからの風習がそのまま残っていたことに驚く。
昭和30年代は、私の親が子どもの頃で、それほど昔という気がしないが、民間信仰だけでなく農作業にしても商売にしても、まるで江戸時代のような印象を受ける写真がたくさん掲載されている。
千刃こき、村中総出で稲藁を使って作る漁網、漆を塗る塗師屋、薬を丸める丸薬師、菅笠を120枚も重ねて運ぶ人、など興味深い写真がたくさんあった。
薬を丸める丸薬師などは存在自体を知らなかったし、葬式の服装も昔は白装束だったということも知らなかった。
この本を読んで感じたのは、風習の断絶だ。
この本に掲載されていることは、僕らの親世代ならなんとなく知っていて、実際に目にしたこともあったのだろう。
でも、僕ら世代にとってはまるで歴史の教科書に出てくる江戸時代のことのように感じてしまう。
つい一世代前のことなのに、自分自身と直接繋がる感じがしないのだ。
昭和30年代といえば高度経済成長のはじまるころだ。
高度経済成長と共に新しい価値観が広がり、昭和30年頃に日本の風習の断絶があったのかもしれない。
長崎の迎え盆や正月の写真を見ると、現在日本各地で行われている「祭」と称されるイベントが如何に民俗的意識が希薄になった行事かということが分かる。
観光客集めも結構だが、その本来の民俗的な考えや行いは、忘れられることの無いよう保存していかなければならないのではないかと感じた。