ブラック企業で働く人に小林多喜二「蟹工船」

初めて小林多喜二の「蟹工船」を読んだのは高校生の時だったろうか。なんだか暗くて大変な話しだなぁ、という程度であまり印象に残るような本ではなかった。

あらためて「蟹工船」を読んでみると、受ける印象はまったく違った。高校生の頃とは違い、自分自身が労働者として日々働き、「蟹工船」の漁夫のように「畜生!」と叫びたくなるようなことも経験すると、この本は実にリアリティをもって迫ってくる。

ブラック企業で働いていたり、お金や経済について違和感を持っている人には是非読んでもらいたい一冊。

いろいろと思うところはあるが、当時は人間の命が粗末に扱われていたことに驚く。近くを通りかかった400人乗船している船が沈没しそうになってSOS信号を出しても、蟹を取る時間が削られるから助けに行かないとか、漁夫が口答えしたから殺すとか、なかなか現代では考えられないことだ。この「蟹工船」は小説のなかの話しだけれど、実際に小林多喜二は、それ以上の拷問を警察に受けて死んでいる。当時に比べると、人間の命の扱いはかなり変わってきているようだ。

時々、南アフリカや南米で大量殺人のニュースを聞いたりすることがあるが、それも人間の命の重さが違う世界がこの現代にあるということなのだろう。そしてそれは経済と密接に関わっていて、金持ちの命は重く、貧乏人の命は軽く扱われる。

現代においても世界規模で見れば、貧富の差は激しく、日本人の命は地球よりも重いが、貧困地域の人々の命は軽い。カンボジアでは数ドルで人身売買が行われるし、日本国内で言えば、東京では他人の時間は1時間1000円で買えるが、高知県では700円で買えてしまう。

お金の暴力性についてはいろいろと思うところもあるのだけれど、なかなか考えは纏まらない。

高知県に移住している人は、東京や都市部の忙しさや経済優先の考え方にアレルギーがあって逃げてきた人が多いと思うのだけど、移住してもやってることが同じことのような気もしている。東京だと皆が同じくらいのお金を持っていたり、自分よりもっとお金を持っている人達がいるから好き放題出来ないけど、地方なら金持ちが少なくて相対的に金持ちに成れるから好き放題出来てサイコーみたいな。じゃあどうすればいいのかと云われても分からないが。

大杉栄や伊藤野枝や辻潤の本は読んでも、小林多喜二については拷問で殺されたことくらいであまりよく知らないままだったので、他の本も読んでみたいと思う。